もじか
文字禍

冒頭文

文字の霊(れい)などというものが、一体、あるものか、どうか。 アッシリヤ人は無数の精霊を知っている。夜、闇(やみ)の中を跳梁(ちょうりょう)するリル、その雌(めす)のリリツ、疫病(えきびょう)をふり撒(ま)くナムタル、死者の霊エティンム、誘拐者(ゆうかいしゃ)ラバス等(など)、数知れぬ悪霊(あくりょう)共がアッシリヤの空に充(み)ち満ちている。しかし、文字の精霊については、まだ誰(だれ)

文字遣い

新字新仮名

初出

「文学界」(「古譚」の題で)1942(昭和17)年2月

底本

  • ちくま日本文学全集 中島敦
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1992(平成4)年7月20日