めいじんでん
名人伝

冒頭文

趙の邯鄲の都に住む紀昌といふ男が、天下第一の弓の名人にならうと志を立てた。己の師と頼むべき人物を物色するに、當今弓矢をとつては、名手・飛衞に及ぶ者があらうとは思はれぬ。百歩を隔てて柳葉を射るに百發百中するといふ達人ださうである。紀昌は遙々飛衞をたづねて其の門に入つた。 飛衞は新入の門人に、先づ瞬きせざることを學べと命じた。紀昌は家に歸り、妻の機織臺の下に潛り込んで、其處に仰向けにひつくり

文字遣い

旧字旧仮名

初出

底本

  • 中島敦全集 第4巻
  • 文治堂書店
  • 1967(昭和42)年6月末第3版刊行