きつねつき
狐憑

冒頭文

ネウリ部落のシャクに憑(つ)きものがしたといふ評判である。色々なものが此の男にのり移るのださうだ。鷹だの狼だの獺だのの靈が哀れなシャクにのり移つて、不思議な言葉を吐かせるといふことである。 後に希臘人がスキュティア人と呼んだ未開の人種の中でも、この種族は特に一風變つてゐる。彼等は湖上に家を建てて住む。野獸の襲撃を避ける爲である。數千本の丸太を湖の淺い部分に打込んで、其の上に板を渡し、其處

文字遣い

旧字旧仮名

初出

底本

  • 中島敦全集 第一巻
  • 筑摩書房
  • 1976(昭和51)年3月15日