いちやのうれい
一夜のうれい

冒頭文

夜は早(はや)十時を過ぎたり。されど浮(うき)立たざる心には、臥床(ふしど)を伸べんことさえ、いとものうし。まして我は寝(い)ねてだに、うれしき夢見るべき目あてもあらぬ墓(はか)なき身なれば、むしろ眠らずして、この儘(まま)一夜を闇黒の中(うち)に過すべきか、むしろこの一夜の永久なる闇黒界にならんことを、慈悲ある神に祈るべきか。かく悲しく思いつづけつつ、われはなお茫然としておりたれど、一点の光だに

文字遣い

新字新仮名

初出

「文藝倶樂部 第二巻第九編臨時増刊 海嘯義捐小説」博文館、1896(明治29)年7月25日

底本

  • 天変動く 大震災と作家たち
  • インパクト出版会
  • 2011(平成23)年9月11日