じっけんしつ |
| 実験室 |
冒頭文
兄と彼れとは又同じ事を繰返して云ひ合つてゐるのに氣がついて、二人とも申合せたやうに押默つてしまつた。 兄は額際の汗を不愉快さうに拭つて、せはしく扇をつかつた。彼れは顯微鏡のカバーの上に薄(うつす)らたまつた埃(ほこり)を隻眼(かため)で見やりながら、實驗室に出入しなかつたこの十日間程の出來事を、涙ぐましく思ひかへしてゐた。 簡單に云ふと前の日の朝に彼れの妻は多量の咯血をして死んでしまつたの
文字遣い
旧字旧仮名
初出
「中央公論 第三十二年第十號秋期大附録號」1917(大正6)年9月1日
底本
- 有島武郎全集第三卷
- 筑摩書房
- 1980(昭和55)年6月30日