どうてい
童貞

冒頭文

「俺はここで死ぬのかな……」 そう思いつつ昂作はヒョロヒョロと立ち止まった。眼の前の電柱に片手を支えると、その掌に、照りつけた太陽の熱がピリピリと泌(し)み込んだ。 彼は今にも倒れそうに咳(せ)き入りつつ、地面(じべた)に映る自分の影法師を見た。……蓬々(ほうほう)と延びた髪の毛……無性ヒゲ……ボロボロの浴衣(ゆかた)……結び目をブラ下げた縄の帯……瘠(や)せ枯れた腕……灰色のホコリにまみれた

文字遣い

新字新仮名

初出

「新青年 第11巻第10号」1930(昭和5)年8月

底本

  • 夢野久作怪奇幻想傑作選 人間腸詰
  • 角川ホラー文庫、角川書店
  • 2001(平成13)年3月10日