とわだこのらぞうにあたう
十和田湖の裸像に与ふ

冒頭文

銅とスズとの合金が立つてゐる。どんな造型が行はれようと無機質の圖形にはちがひがない。はらわたや粘液や脂や汗や生きもののきたならしさはここにない。すさまじい十和田湖の圓錐空間にはまりこんで天然四元の平手打をまともにうける銅とスズとの合金で出來た女の裸像が二人影と形のやうに立つてゐる。いさぎよい非情の金屬が青くさびて地上に割れてくづれるまでこの原始林の壓力に堪へて立つなら幾千年でも默つて立つてろ。

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「婦人公論 第三十八巻第一号」中央公論社、1954(昭和29)年1月1日(公立図書館の蔵書検索では「第三十九巻第一号」に修正されている)

底本

  • 婦人公論 第三十八巻第一号
  • 中央公論社
  • 1954(昭和29)年1月1日