かんじつげつ
閑日月

冒頭文

北も南も二階建の大きな家に遮(さへぎ)られてゐるが、それでも隙間を漏れて、細い光が障子の隅にさしてゐる。小春日和にこの谷底のやうな部屋も温かくて、火鉢の炭火(すみ)も消えかかつたまゝ忘れられてゐた。山地佐太郎は中古(ちゆうぶる)の括枕(くくりまくら)に長く髮の伸びた頭を乘せて仰向けに寢てゐること既に二三時間。目は開いてゐるが、心はとろ〳〵と眠りかけ、心臟の鼓動ものろい。壁一重隔てゝは、天氣のいゝせ

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「中央公論 第二十三巻第十二号」1908(明治41)年12月1日

底本

  • 正宗白鳥全集第一卷
  • 福武書店
  • 1983(昭和58)年4月30日