ちいさきかげ |
| 小さき影 |
冒頭文
誰にあてるともなくこの私信を書き連らねて見る。 信州の山の上にあるK驛に暑さを避けに來てゐる人は澤山あつた。彼等は思ひ〳〵に豐な生活の餘裕を樂んでゐるやうに見えた。さはやかな北海道の夏を思はせるやうなそこの高原は、實際都會の苦熱に倦み疲れた人々を甦らせる力を十分に持つてゐた。私の三人の子供達——行夫、敏夫、登三——も生れ代つたやうな活溌な血色のいゝ子達になつてゐた。彼等は起きぬけに冷水浴をすま
文字遣い
旧字旧仮名
初出
「大阪毎日新聞 第一二七五四號~第一二七六一號」1919(大正8)年1月5日~12日<br>「東京日日新聞 第一五一六九號~第一五一七六號」1919(大正8)年1月6日~13日
底本
- 有島武郎全集第三卷
- 筑摩書房
- 1980(昭和55)年6月30日