やけあと
焼跡

冒頭文

洋傘 昭和二十年の五月に燒けた青山の家には、澤山の書物などがあつて、いまだに目のまへにちらついてかなはない。書棚も、それから、萬葉關係の古書なんかも、燒ける前その儘の姿であらはれて來る。殘念などといつたところで、もはや甲斐ないはなしである。 さういふ灰燼に歸した物の中に、一本の洋傘があつた。これは、大正十年の十月、自分が留學の途にのぼるとき、丸善で買つたものであつた。その洋傘が、大正十四年の

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「東京新聞」1948(昭和23)年4月14日、15日

底本

  • 齋藤茂吉全集 第七卷
  • 岩波書店
  • 1975(昭和50)年6月18日