たちあなひめ
たちあな姫

冒頭文

十一月の終か、十二月の初頃でした。私は、その日珍しく社から早く帰って来ました。退社の時刻は、大抵六時——どんなに早くっても五時だったのですが、其日にかぎって、四時頃に社を出たように思います。 その頃は、江戸川縁(べり)の西江戸川町に住んで居ました。琴の師匠の家の部屋を借りて、妻と一緒に暮して居たのです。その日、私は社から帰って来ますと、久し振りで銭湯へ行きました。そして、ゆったりとした気持にな

文字遣い

新字新仮名

初出

「太陽」1919(大正8)年4月号

底本

  • 菊池寛文學全集 第三巻
  • 文藝春秋新社
  • 1960(昭和35)年5月20日