ろうじん
老人

冒頭文

臼木は長年もと日本橋区内に在った或(ある)病院の会計をしていた時分から、株式相場にも手を出し、早くから相応に財産をつくっていたが、支那事変の始ったころ、年も六十近くなったので、葛飾区立石町(たていしまち)に引込み、老妻に釣道具と雑貨とを売らせ、自分は裏畠に花や野菜を栽培したり、近くの中川や江戸川へ釣に出たりして老後の日を楽しく送っている。 忰(せがれ)が一人、娘が一人あったが、忰の方は出征する

文字遣い

新字新仮名

初出

「オール読物 第五巻第七号」文藝春秋新社、1950(昭和25)年7月1日

底本

  • 問はずがたり・吾妻橋 他十六篇
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 2019(令和元)年8月20日