くものさけめ
雲の裂け目

冒頭文

お前の幼な姿を見ることができた。それは僕がお前と死別れて郷里の方へ引あげる途中お前の生家に立寄った時だったが、昔の写真を見せてもらっているうちに、庭さきで撮られた一家族の写真があった。それにはお前の父親もいて、そのほとりに、五つか六つ位の幼ないお前は眼をきっぱりと前方に見ひらいていて、不思議に悲しいような美しいものの漲っている顔なのだ。こんな立派な思いつめたような幼な顔を僕はまだ知らなかった。そう

文字遣い

新字新仮名

初出

「高原」鳳文書林、1947(昭和22)年12月20日

底本

  • 原民喜戦後全小説
  • 講談社文芸文庫、講談社
  • 2015(平成27)年6月10日