むかしのみせ
昔の店

冒頭文

静三が学校から帰って来た時、店の前にいた笠岡が彼の姿を認めると「恰度いい処へお帰りね、今、写真撮ろうとしている処なのよ」と云って、早速彼を自転車の脇に立たせた。その時(それは明治四十三年のことであった)出来上った写真は、店先の自転車に凭掛(よりかか)っている静三の姿のほかは、誰もはっきり撮れていなかった。父も兄も他の店員たちも少し引込んだ場所に並んでいたため、写真ではその辺が真暗になり、みんな輪郭

文字遣い

新字新仮名

初出

「若草」宝文館、1948(昭和23)年6月

底本

  • 原民喜戦後全小説
  • 講談社文芸文庫、講談社
  • 2015(平成27)年6月10日