くせもの
曲者

冒頭文

☆その男が私の前に坐って何か話しているのだが、私は妙に脇腹のあたりが生温かくなって、だんだん視野が呆けてゆくのを覚える。例によって例の如く、これは相手の術策が働いているのだなと思う。私は内心非常に恥しく、まる裸にされて竦(すく)んでいる哀れな女を頭に描いていた。そのまる裸の女を前にして、彼は小気味よそうに笑っているのである。急に私は憎悪がたぎり、石のように頑(かたくな)なものが身裡に隠されているの

文字遣い

新字新仮名

初出

「進路」進路社、1948(昭和23)年2月号

底本

  • 原民喜戦後全小説
  • 講談社文芸文庫、講談社
  • 2015(平成27)年6月10日