はなよりあめに
花より雨に

冒頭文

しづかな山の手の古庭に、春の花は支那の詩人が春風二十四番と數へたやう、梅、連翹(れんげう)、桃、木蘭、藤、山吹、牡丹、芍藥(しやくやく)と順々に咲いては散つて行つた。 明い日の光の中に燃えては消えて行くさま〴〵な色彩の變轉は、默つて淋しく打眺める自分の胸に悲しい戀物語の極めて美しい一章々々を讀み行くやうな軟かい悲哀を傳へる。 われの悲しむは過ぎ行く今年の春の爲めではない、又來(く)べき翌年

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「秀才文壇 第九卷第拾八號(臨時増刊)」1909(明治42)年8月

底本

  • 荷風全集第四卷
  • 岩波書店
  • 1964(昭和39)年8月12日