むしのこえ |
| 虫の声 |
冒頭文
東京の町に生れて、そして幾十年という長い月日をここに送った……。 今日まで日々の生活について、何のめずらしさをも懐しさをも感じさせなかった物の音や物の色が、月日の過ぎゆくうちにいつともなく一ツ一ツ消去(きえさ)って、ついに二度とふたたび見ることも聞くこともできないということが、はっきり意識せられる時が来る。すると、ここに初めて綿々として尽きない情緒が湧起(わきおこ)って来る——別れて後(のち)
文字遣い
新字新仮名
初出
「中央公論 第五十一年第六號」1936(昭和11)年6月
底本
- 21世紀の日本人へ 永井荷風
- 晶文社
- 1999(平成11)年 1月30日