うそをつくひ
嘘をつく日

冒頭文

患者としてはこの病院内で一番の古顏となつたかはりに、私は思の外(ほか)だんだん快(よ)くなつて行つた。 もう春も近づいた。青い澄んだ空は、それをまじまじと眺めてゐる私に眩(まぶ)しさを教へる。さうしてついとその窓を掠(かす)めて行く何鳥かの羽裏がちらりと光る。私はむくむくと床をぬけ出して、そのぢぢむさい姿を日向(ひなた)に曝(さら)し、人並に、否病めるが故に更により多くの日光を浴びようと

文字遣い

旧字旧仮名

初出

底本

  • 現代日本文學全集 85 大正小説集
  • 筑摩書房
  • 1957(昭和32)年12月20日