はる |
| 春 |
冒頭文
春になると北海道の春を思ふ。私は如何いふものか春が嫌ひだ。それは感情的にさうだと云ふよりも寧ろ生理的にさうなのだらう。若い女の人などが、すつかり上氣せ上つて、頬を眞赤にして、眼までうるませてゐるのを見たりすると、籠り切つたやうな重苦しい春の重壓が私の精神をまで襲つて來る。醗酵し切らない濁酒のやうな不純な、鈍重な、齒切れの惡い悒鬱が何所からともなく私の心と肉とをさいなんでかゝる。あの重く、暖かく、朧
文字遣い
旧字旧仮名
初出
「新小説 第二十四年第四號」1919(大正8)年4月1日
底本
- 有島武郎全集第七卷
- 筑摩書房
- 1980(昭和55)年4月20日