しろいめんどりのゆくえ
白い雌鷄の行方

冒頭文

一 年老いた父と母と小娘二人との寂しいくらし——それは私が十二の頃の思出に先づ浮んで來る家庭の姿であつた。總領の兄は笈を負うて都に出てゐるし、やむなく上の姉に迎へた養子は、まだ主人からの暇が出ないで、姉と共に隣町のお店(たな)に勤めてゐた。町でも繁華な場所に家屋敷はあつたけれど、軒並に賑つてゐる呉服屋や小間物店の間にあつて、私の家ばかりは廣い間口に寂しく蔀が下されてあつた。 年に一

文字遣い

旧字旧仮名

初出

底本

  • 叢書『青踏』の女たち 第10巻『水野仙子集』
  • 不二出版
  • 1986(昭和61)年4月25日復刻版第1刷