へんきかんまんろく
偏奇館漫録

冒頭文

○ 庚申(こうしん)の年孟夏(もうか)居を麻布(あざぶ)に移す。ペンキ塗の二階家なり。因って偏奇館(へんきかん)と名づく。内に障子襖なく代うるに扉を以てし窓に雨戸を用いず硝子(ガラス)を張り床に畳を敷かず榻(とう)を置く。朝に簾を捲くに及ばず夜に戸を閉すの煩なし。冬来るも経師屋(きょうじや)を呼ばず大掃除となるも亦畳屋に用なからん。偏奇館甚独居に便なり。 門を出で細径を行く事数十歩始めて街路に

文字遣い

新字新仮名

初出

「新小説 第二十五年第十號~第二十六年第三號」春陽堂、1920(大正9)年10月1日~1921(大正10)年3月1日

底本

  • 麻布襍記 ――附・自選荷風百句
  • 中公文庫、中央公論新社
  • 2018(平成30)年7月25日