はなび |
| 花火 |
冒頭文
午飯の箸を取ろうとした時ポンと何処かで花火の音がした。梅雨も漸く明けぢかい曇った日である。涼しい風が絶えず窓の簾を動かしている。見れば狭い路地裏の家々には軒並に国旗が出してあった。国旗のないのはわが家の格子戸ばかりである。わたしは始めて今日は東京市欧洲戦争講和記念祭の当日であることを思出した。 午飯をすますとわたしは昨日から張りかけた押入の壁を張ってしまおうと、手拭で斜に片袖を結び上げて刷毛を
文字遣い
新字新仮名
初出
「改造 第一卷第九號」改造社、1919(大正8)年12月1日
底本
- 麻布襍記 ――附・自選荷風百句
- 中公文庫、中央公論新社
- 2018(平成30)年7月25日