いくどめかのさいご |
| 幾度目かの最期 |
冒頭文
熊野の小母さんへ。 あなたには、四五年も昔から、よくお便りしてます。けれど、こんな殺風景な紙に、宿命的な味気ない字を書くことは、はじめてです。いつも、信州の紙とか、色のついたアート紙に、或いはかすれた筆文字で、或いは、もっと、面白くきれいな字——いやこれは、おこがましいかな。でも、あなたは、私の字を好んでくれました。——で、お便りしたものです。何故、この紙を選んだか、おわかりですか。実は、あな
文字遣い
新字新仮名
初出
「VIKING47・VILLON4 共同刊行号」1953(昭和28)年3月
底本
- 幾度目かの最期
- 講談社文芸文庫、講談社
- 2005(平成17)年12月10日