ドミノのおつげ
ドミノのお告げ

冒頭文

或る日。—— 足音をしのばせて私は玄関から自分の居間にはいり、いそいで洋服をきかえると父の寝ている部屋の襖をあけました。うすぐらいスタンドのあかりを枕許によせつけて、父はそこで喘いでおります。持病の喘息が、今日のような、じめじめした日には必ずおこるのです。秋になったというのに今年はからりと晴れた日はまだ一日もなく、陰気な、うすら寒い、それで肌に何かねばりつくような日がつづいていました。 「た

文字遣い

新字新仮名

初出

「VIKING 17号」1950(昭和25)年4月号

底本

  • ドミノのお告げ
  • べんせいライブラリー 青春文芸セレクション、勉誠出版
  • 2003(平成15)年2月15日