ふゆびのまど
冬日の窓

冒頭文

○ 窓の外は鄰の家の畠である。 畠の彼方に、その全景が一目に眺められるやうな適当の距離に山が聳えてゐる。 山の一方が低くなつて樹木の梢と人家の屋根とに其麓をかくしてゐるあたりから、湖水(みづうみ)のやうな海が家よりも高く水平線を横たへてゐる。 これが熱海の町端(まちはづれ)の或家の窓から見る風景である。九月の初からわたくしは此処に戦後の日を送つてゐる。秋は去り年も亦日に日に残少くなつて

文字遣い

新字旧仮名

初出

「新生 第二巻第二号」1946(昭和21)年2月1日

底本

  • 荷風全集 第十九巻
  • 岩波書店
  • 1994(平成6)年11月28日