ちいさなにわ
小さな庭

冒頭文

庭 暗い雨のふきつのる、あれはてた庭であつた。わたしは妻が死んだのを知つておどろき泣いてゐた。泣きさけぶ声で目がさめると、妻はかたはらにねむつてゐた。 ……その夢から十日あまりして、ほんとに妻は死んでしまつた。庭にふりつのるまつくらの雨がいまはもう夢ではないのだ。 そら おまへは雨戸を少しあけておいてくれというた。おまへは空が見たかつたのだ。うごけないからだゆゑ朝の訪れが待ちどほしかつ

文字遣い

新字旧仮名

初出

「三田文学」三田文学会、1946(昭和21)年6月号

底本

  • 原民喜全詩集
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 2015(平成27)年7月16日