『かなしきがんぐ』をよむ
『悲しき玩具』を読む

冒頭文

石川啄木君は、齢三十に至らずして死なれた。『一握の砂』と『悲しき玩具』との二詩集を明治の詞壇に寄与した許りで死なれた。 石川君とは鴎外博士宅に毎月歌会のあつた頃、幾度も幾度も逢つた筈である。処が八度の近視眼鏡を二つ掛ける吾輩は、とう〳〵其顔を能く見覚える事も出来なくて終つた。 さうして今此遺著を読んで見ると、改めて石川君に逢着したやうな気がする。かすかな記憶から消えて居つた、石川君の顔が思

文字遣い

新字旧仮名

初出

「アララギ 第五卷第八號」1912(大正元)年8月1日

底本

  • 群像 日本の作家 7 石川啄木
  • 小学館
  • 1991(平成3)年9月10日