はじめてきょうかせんせいにおめにかかったとき
初めて鏡花先生に御目にかゝつた時

冒頭文

明治三十六年の秋であつたと思ひますが、東京美術学校の教室で、古画の模写の時間に机を並べて居たのは、小林波之輔君といふ珍らしい秀才でありました。其時小林君は雪舟筆四季山水を写してゐた事を記憶して居ますが、自分は何を写してゐたか覚えて居りません。如何したはずみか話が小説の事になりまして、同君は、鏡花の小説ほど好きなものはないと言つて、暗記してゐる様に話して呉れましたのが龍潭譚でありました。成る程何とも

文字遣い

新字旧仮名

初出

「図書 第5年第50号 泉鏡花号」1940(昭和15)年3月5日

底本

  • 小村雪岱随筆集
  • 幻戯書房
  • 2018(平成30)年2月15日