フェリシテ
フェリシテ

冒頭文

彼女はフェリシテという名前だった。貧しい女で、美人でもなく、若さももう失われていた。 夕方、方々の工場(こうば)の退(ひ)け時になると、彼女は街へ出て、堅気(かたぎ)女らしい風でそぞろ歩きをした。ときどき微かに歩調をゆるめたかと思うと、また元のように歩いて行った。 他(よそ)の子供等が裾にからまって来ると、彼女は優しい身振りでそれを避(よ)けたり、抱きとめたりした。そしてその母親たちには莞

文字遣い

新字新仮名

初出

「夜鳥」春陽堂、1928(昭和3)年6月23日

底本

  • 夜鳥
  • 創元推理文庫、東京創元社
  • 2003(平成15)年2月14日