ピストルのこわく
ピストルの蠱惑

冒頭文

一時間前までおれは囚人だった。しかも大変な囚人だ。外聞だの刑期だのという問題ではなく、すんでのことに、この首が飛ぶところであったのだ。 斬首台(ギョッチーヌ)を夢に見て魘(うな)されたことも幾度だかしれない。そんなときは思わずぞっとして、もしやあの庖丁の細い刃の痕がついていはせぬかと、冷汗の滲んだねばねばする手で、そっと頸筋を撫でてみるのだった。弥次馬の立騒ぐ声までも聞えるような気がして、ぶる

文字遣い

新字新仮名

初出

「夜鳥」春陽堂、1928(昭和3)年6月23日

底本

  • 夜鳥
  • 創元推理文庫、東京創元社
  • 2003(平成15)年2月14日