ろうじょうとねこ
老嬢と猫

冒頭文

その老嬢は毎朝、町の時計が六時を打つと家を出かけた。 それは最初の弥撒(ミサ)を聴くために、近所の教会堂へ出かけるのだが、彼女はまず注意ぶかく戸じまりをしてから、どの頁も手垢によごれて隅がぶよぶよになった、古い祈祷書をしっかと抱えて、小急(こいそ)ぎに街を通ってゆくのであった。 教会堂へつくと、殆んどがら空きな脇間の祈祷台に膝まずいて、両手を組み合せ頸をふりふり、牧師の声に合せて低声(こご

文字遣い

新字新仮名

初出

「新青年」1927(昭和2)年6月号

底本

  • 夜鳥
  • 創元推理文庫、東京創元社
  • 2003(平成15)年2月14日