ふたりのははおや
二人の母親

冒頭文

「坊ちゃん、いくつ?」 通りがかりの老紳士が問いかけると、 「四つ」 砂いじりに夢中になっていた男の子が答えた。 「名前は何ていうの」「ジャン」「苗字は?」「ジャン」「それだけじゃ、わからないね」老紳士は莞爾(にっこり)して、「ジャンという名前の子供は沢山いるからね。お父さんの苗字は何というの」「僕、ジャンていうのよ」 と子供は無邪気に紳士の顔を見あげた。 そのとき、傍(そば)の共同椅子で

文字遣い

新字新仮名

初出

「夜鳥」春陽堂、1928(昭和3)年6月23日

底本

  • 夜鳥
  • 創元推理文庫、東京創元社
  • 2003(平成15)年2月14日