ちち

冒頭文

最後の一耘(すき)の土を墓穴へかぶせてしまって、お終いの挨拶がすむと、父子(おやこ)はゆったりした歩調で家の方へ帰って行ったが、その一歩一歩がひどく大儀そうであった。二人とも無言(だんまり)で歩いていた。長い混雑(とりこみ)の後に起るくたびれが急に出てきて、物をいうさえもおっくうだった。 家へ帰ってみると、柩(ひつぎ)に供えた花の香気が、まだそこいらに残っていた。この数日来、多数の人の出入りや

文字遣い

新字新仮名

初出

「夜鳥」春陽堂、1928(昭和3)年6月23日

底本

  • 夜鳥
  • 創元推理文庫、東京創元社
  • 2003(平成15)年2月14日