こどく
孤独

冒頭文

その年老(と)った事務員は、一日の単調な仕事に疲れて役所を出ると、不意に蔽(おっ)かぶさってしだいに深くなってゆく、あの取止(とりと)めもない哀愁に囚われた。そして失える希望と仇(あだ)に過ごした光陰を歎く旧い悩みを喚びおこしながら、珍らしくも、ぼんやりと門前に立ちどまった。それまでは、毎日脇目もふらずに宿へ帰ってゆくことが、二十五年もつづけて来た習慣だったのに。 街は賑わっていた。店舗(みせ

文字遣い

新字新仮名

初出

「夜鳥」春陽堂、1928(昭和3)年6月23日

底本

  • 夜鳥
  • 創元推理文庫、東京創元社
  • 2003(平成15)年2月14日