いぬごや
犬舎

冒頭文

十一時が鳴ると、アルトヴェル氏は麦酒(ビール)の最後の一杯をぐっと飲み乾し、ひろげていた新聞をたたんで、うんと一つ伸びをやって、欠伸(あくび)をして、それからゆったりと起(た)ちあがった。 吊り飾燈(ランプ)の明るい光りは、弾丸(たま)や薬苞の散らばっている卓布(ナップ)の上をあかあかと照らしていた。そして暖炉のそばには、肱掛椅子に深々とうずまった婦人の横顔がくっきりと影絵のように見えていた。

文字遣い

新字新仮名

初出

「新青年」1923(大正12)年3月号

底本

  • 夜鳥
  • 創元推理文庫、東京創元社
  • 2003(平成15)年2月14日