あんちゅうのせっぷん
暗中の接吻

冒頭文

「御免なさい……御免なさい……」 女は膝まずいて哀願していた。男は少しやさしい口調になって、 「起(た)ちなさい、もう泣かんでもいい。おれにも欠点があったんだからな」「いいえ、貴郎(あなた)、飛んでもない……」 女が口ごもりながらいうと、男は首をふって、 「お前と別れたのが悪かったんだよ。お前はおれを愛していたのだからね。尤も、おれだって初めはこんな風に考える余裕もなかったさ。あの当座、硫酸で

文字遣い

新字新仮名

初出

「新青年」1926(大正15)年9月号

底本

  • 夜鳥
  • 創元推理文庫、東京創元社
  • 2003(平成15)年2月14日