あおばえ
青蠅

冒頭文

男は、死んだ女のそばに突立って、平然とその屍体を見まもった。 彼は眼を細めにあけて、大理石の石板(いしいた)に横(よこた)えられた女の白い体と、胸の只中をナイフで無残に刳(えぐ)られた赤い創口(きずぐち)とを見た。 屍体はすでに硬直しているにも拘らず、完全な肉附の美くしさは、まるで生きている人のようだ。ただその余りに蒼白くなった手の皮膚や、紫色に変色した爪や、かっと見ひらいた両眼、気味わる

文字遣い

新字新仮名

初出

「新青年」1923(大正12)年1月増刊号

底本

  • 夜鳥
  • 創元推理文庫、東京創元社
  • 2003(平成15)年2月14日