ひびき

冒頭文

一 藤村の羊羹、岡野の粟饅頭、それから臺灣喫茶店の落花生など、あの人の心づくしの数々が、一つ一つ包の中から取り出されつゝあつた。——私はゴム枕に片頬をつけたまゝ、默つてお蔦が鋏をもつて糸を切るのから、その糸を丹念にくるくると指の先に巻いて、薄紫と赤と青との切手の貼られた送票を丁寧に剥がしたりしてゐるのを、もどかしく眺めてゐた。けれどもそのもどかしさに何ともいへぬ樂しさがあるのを思つて、私はせ

文字遣い

旧字旧仮名

初出

底本

  • 叢書『青踏』の女たち 第10巻『水野仙子集』
  • 不二出版
  • 1986(昭和61)年4月25日復刻版第1刷