かいきいっせきばなし
怪奇一夕話

冒頭文

春の雑誌に何か怪奇趣味の随筆めいたものを書けと命ぜられた。これは難題であると私は思った。 昔も今も新年は陽気なものである。お屠蘇の一杯も飲めば、大抵の弱虫も気が強くなって、さあ矢でも鉄砲でも幽霊でも化物でも何でも来いということになる。怖い物見たさが人間の本能であると云っても、屠蘇気分と新年気分とに圧倒されて、その本能も当分屏息の体である。その時、ミステリアスが何うの、グロテスクが何うのと云った

文字遣い

新字新仮名

初出

「中央公論」1935(昭和10)年2月

底本

  • 綺堂随筆 江戸っ子の身の上
  • 河出文庫、河出書房新社
  • 2003(平成15)年1月20日