げんそう
幻想

冒頭文

乞食は、その日、辻馬車の扉(と)を開け閉てして貰いためた僅かの小銭を衣嚢(かくし)の底でしっかと握り、寒さで青色(ぶすいろ)になって、首をちぢめて、身を切るような寒風を避ける場所を探しながら、急ぎ足の人々とともに往来を歩いて行った。 すっかり草臥(くたび)れてしまって、『どうじゃ一銭』を云うさえ億劫だし、手をのべたくても、手套(てぶくろ)なしの手は我慢にも衣嚢(かくし)から出せないほど凍(かじ

文字遣い

新字新仮名

初出

「新青年」1925(大正14)年1月増刊号

底本

  • 夜鳥
  • 創元推理文庫、東京創元社
  • 2003(平成15)年2月14日