ふじとざん
富士登山

冒頭文

私が富士山に登ったのは十五六年前のことである。平々凡々の陸行であったので特に書き記すほどのこともない。殊に当時ホトトギス誌上には碧梧桐君が其記事を書いたので私は何も書かなかった。今書くとなるともう大方は忘れてしまっているので、いよいよ何も書くことはないわけであるが、それでも思い出し思い出し概略を記して見ることにする。 十五六年前の富士登山は、今日ほど普通なものではなかった。その前年中村不折君が

文字遣い

新字新仮名

初出

「ホトトギス 第十九卷第十二號」1916(大正5)年9月1日

底本

  • 紀行とエッセーで読む 作家の山旅
  • ヤマケイ文庫、山と渓谷社
  • 2017(平成29)年3月1日