みのうえばなし |
| 身上話 |
冒頭文
「御勉強。」 障子の外から、小聲で云ふのである。 「誰だ。音をさせないで梯を登つて、廊下を歩いて來るなんて、怪しい奴だな。」「わたくし。」 障子が二三寸開いて、貧血な顏の切目の長い目が覗く。微笑んでゐる口の薄赤い唇の奧から、眞つ白い細く揃つた齒がかがやく。 「なんだ。誰かと思つたら、花か。もう手紙の代筆は眞平だ。」「あら。いくらの事だつて、毎日手紙を出しはしませんわ。」「毎日出すとも、一時間に
文字遣い
旧字旧仮名
初出
「新潮 第十三卷第五號」1910(明治43)年11月1日
底本
- 鴎外全集 第七卷
- 岩波書店
- 1972(昭和47)年5月22日