ほうさいぎょうあんき
訪西行庵記

冒頭文

はらからと袂を分ち、むつましきかぎりに別れをつげて、たゞ〳〵ものくるはしき一筋にうかれそめ、難波西海のあたりをさまよふこと二月あまり、菅笠の破れたるをいたゞき、身には合羽のふりたるを着し、おもくるしき旅の調度ども前後に背負ひたるさま、まことに怪しき姿して、ことし三月十四日吉野山西行庵に上人の木像を驚かす。西行庵はよしの村をはなるゝこと五十丁ばかり、樵夫の外には通ふものだになき羊腸さかしき山路を分け

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「默歩七十年」聖文閣、1938(昭和13)年10月12日

底本

  • 藤村全集第十六卷
  • 筑摩書房
  • 1967(昭和42)年11月30日