かなしめるかお
悲しめる顔

冒頭文

京の娘は美しいとしきりに従弟が賞めた。それに帰るとき、 「此の雨があがると祇園の桜も宜しおすえ。」 そんなことを云つたので猶金六は京都へ行つてみたくなつた。 縁側で彼の義兄が官服を着たまゝ魚釣り用の浮きを拵へてゐる。金六は義兄の傍に蹲んだ。 義兄はあら削りの浮きを一寸掌の上に載せてみて、 「子モロコを食はしてやるぞ、五六十疋も釣つて来てなア。」と云つた。「おいしいのですか。」「うまいの

文字遣い

新字旧仮名

初出

「街 第一號」1921(大正10)年6月1日

底本

  • 定本 横光利一全集 第一卷
  • 河出書房新社
  • 1981(昭和56)年6月30日