しんきちょうしゃにっき しゅうい
新帰朝者日記 拾遺

冒頭文

二月五日 葉山の別邸に父を訪ねた。玄關からは上らずに柴折戸(しをりど)を潜つて庭へ這入ると、鼈甲の大きな老眼鏡をかけた父は白髯(しらひげ)を撫でながら、縁側の日當りに腰をかけて唐本(たうほん)を讀んで居られたが、自分の姿を見ると、何より先に、去年來た時よりも庭の石に大分苔がついたであらうがと云はれた。庭はさして廣いと云ふではないが、歩むだけの小徑(こみち)を殘して、一面に竹を植ゑ、彼方此方(かな

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「中央公論 第二十四年第十號」1909(明治42)年10月

底本

  • 荷風全集第四卷
  • 岩波書店
  • 1964(昭和39)年8月12日