きょうはぶじ
今日は無事

冒頭文

このごろは淺間山もしきりに煙を噴いてゐる。鳴動して黒煙を吐き白煙を吐いてゐる。天明の大噴火を想像すると、今の世にだつて、無數の熔岩が猛烈な勢ひをもつて湧出して、六里ヶ原の慘状を新たに現出するのではないかと氣遣はれたりするのであるが、それは詩中の不安情調で、わが心に陰鬱の影がさすのではない。さえた空に、鳴動とともに、むくむくと噴き上つた煙が漂ふのは、見るからに壯快なのである。 目に見えぬ灰が、い

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「毎日新聞」1954(昭和29)年5月5日

底本

  • 正宗白鳥全集第二十九卷
  • 福武書店
  • 1984(昭和59)年3月31日