なつ 〔わたしがびんぼうで〕
夏 〔私が貧乏で〕

冒頭文

私が貧乏で、旅行としいへば殆んど夏にしかしないからかも知れない、………夏と聞くと旅愁が湧いて来て、却々「夏は四季のうち、自然の最も旺んなる時なり」どころではない、なんだか哀れにも懐しいといつた風で、扨この夏はどうしようかなと思ふと、忽ちに嘗て旅した何処かの、暑い暑い風景が浮んで来て、おもへば遠く来つるかなと、そいつた気持に胸はふくらむで来るのである。 ゆらりゆらりと、柳が揺れてゐる、時々校庭を

文字遣い

新字旧仮名

初出

「詩人時代」1935(昭和10)年8月号

底本

  • 新編中原中也全集 第四巻 評論・小説
  • 角川書店
  • 2003(平成15)年11月25日