おうがいせんせい
鴎外先生

冒頭文

凡てのいまはしい物の形をあからさまに照す日の光が、次第に薄らいで、色と響と匂のみ浮立つ黄昏(たそがれ)の來るのを待つて、先生は「社會」と云ふ窮屈な室を出で、「科學」と云ふ鐵の門を後にして、決して躓いた事のない極めて規則正しい、寛濶な歩調で、獨り靜に藝術の庭を散歩する。藝術の庭は實に廣く、薄暗く、隅々までは能く見えない。いろ〳〵な花がさいて居るけれど、まだ誰も見た事のない花が、どれだけ暗い影の中に咲

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「中央公論 第二十四年第九號」1909(明治42)年9月1日

底本

  • 荷風全集第十五卷
  • 岩波書店
  • 1963(昭和38)年11月12日