がはどこにでもいる
蛾はどこにでもゐる

冒頭文

一 たうとう彼の妻は死んだ。彼は全くぼんやりとして、妻の顏にかかつてゐる白い布を眺めてゐた。昨夜妻の血を吸つた蚊がまだ生きて壁にとまつてゐた。 彼は部屋に鍵をかけたまま長らくそこから出なかつた。彼は蚊が腹に妻の血を蓄へて飛んでゐるのを見ると、妻の死骸よりも、蚊の腹の中で、まだ生きてゐる妻の血に胸がときめくのを感じた。 二 彼は家をたたむと一時妻の家へ行つてゐた。彼はそこから日日金のある

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「文藝春秋 第四年第十號」1926(大正15)年10月1日

底本

  • 定本 横光利一全集 第二巻
  • 河出書房新社
  • 1981(昭和56)年8月31日