ちえにうもれて
智慧に埋れて

冒頭文

私には親も同胞も無いのです。私は海岸に近い平野の森の中に棲んで居るのです。老僕夫妻が、私の棲んで居る小さな洋館とはまるで関係のない直ぐ傍の昔風の小さな日本家屋に生活して居るのです。私は遺産を近親の死から十五の年に得て清楚(せいそ)な暮しに一生涯事欠かない孤独な少女学究者なのです。日本語と英語フランス語を読むに欠かないだけの素養があるので別に学校などへは行かない。その代り以上の国語で書いた書物は欲し

文字遣い

新字新仮名

初出

「令女界」1929(昭和4)年6月号

底本

  • 岡本かの子全集1
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1994(平成6)年1月24日